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【最後の宰相、田中角栄⑤】「俺の名刺を大蔵省に届けろ」

豪胆さと行動力で知られる田中角栄。しかし、実は部下への気配りを欠かさない繊細な神経の持ち主でもありました。

とりわけ1971年の日米繊維交渉の大詰めで見せた通産省の官僚への配慮は見事でした。繊維交渉を決着させるにはどうしても2000億円の予算が必要となった時の話です。総理とも話をつけ、予算の配分権を持つ大蔵大臣も納得させたうえで、今度は事務方が仕事を進めやすいよう自分の名刺に「2000億円よろしく頼む」と書き、「大蔵省にこれを持っていけ」と送り出したのです。
どうでしょうか、この気配り。人間、角栄の配慮の深さ、優しさがにじみますよね。詳しく見ていきましょう。


このブログでは、以下のポイントを中心にまとめています。

●日米繊維交渉って何?
●なぜ交渉をまとめるのに2000億円も必要だったの?
●角栄が名刺に「2000億円頼む」と書いた背景は?

目次

1-1、自主規制の見返りに2000億円を繊維業界へ

1971年7月。角栄は通産大臣となります。最大の懸案は日米繊維交渉の打開でした。
8年間、日本と米国の主張が対立し、日本の繊維メーカーの輸出攻勢にニクソン米大統領は激しくいら立っていました。「これ以上の交渉引き延ばしは無理」。どうするか。出てきた打開策が繊維製品輸出の条件付き自主規制でした。日本の繊維業界に輸出を制限させる代わりに、老朽化した設備を政府が買い上げ、繊維業界の損失を補填するという案です。
これには2000億円という巨額資金が必要でした。通産省の予算の約半分という巨費を何とか大蔵省に捻出してもらわないとなりません。角栄は総理の佐藤栄作に電話で直談判、了解をとりつけます。大蔵大臣の水田三喜男にもアッという間に話をつけてしまいました。

1-2、名刺に一筆、「これを届けろ」

本来ならこれで一件落着です。日本のトップ、財政の責任者がオッケーを出しているのですから、話はトントン拍子で進んでいくはずでした。

 しかし、角栄は「後、事務処理はよろしく」と官僚に丸投げすることしませんでした。「俺の名刺を持ってきてくれ」と頼み、そこに「2000億円よろしく頼む」と書き込んだのです。しかも、さらっと丁寧な字で「徳田博美主計官殿」と書き込み、「これを届けろ」と言ったのでした。

そもそも主計官のフルネームを暗記していて、それをさらっと書くなんてやはり「コンピューター付きブルドーザー」だと思われませんか。
予算の配分権を現場で握る主計官は超エリートではありますが、何人もいます。そのなかで誰が担当なのかを頭のなかに入れて、さっと間違えることなくフルネームを書く。なかなかできることではありません。もともと角栄は通産大臣になる前に大蔵大臣もやっていますから、徳田主計官のことも知っていたかもしれませんが、そんな名刺を持たされた通産省の事務方はさぞかし仕事が進めやすかったでしょう。
角栄というのはそういう人だったのです。

1-3、問題が大きいほど緻密に、繊細に

 実はこの時、日米繊維交渉は沖縄返還とセットになっていました。仮に交渉に失敗していれば、沖縄は今も日本に返ってきていなかったかもしれません。総理だった佐藤栄作も、担当大臣だった角栄も、何が何でも交渉を成功させなければなりませんでした。

ですから2000億円という当時としては途方もない金額を使うのも国益を考えれば仕方なかったのかもしれません。ただ、簡単ではなかった。総理も大蔵大臣も首を縦に振ったからと言って、現場がすんなりオッケーという保証はどこにもありませんでした。現場の怖さを叩き上げの角栄はよくわかっていたのですね。名刺に丁寧に、しかも主計官の名前に「殿」までつけて配慮したのはそのためです。取り扱う問題が大きければ大きいほど繊細に気を配る。それが田中角栄なんですね。

1-4、まとめ

 角栄の気配りもあって2000億円の予算は通りました。1971年10月、交渉は見事決着し、角栄は記者会見でそれを発表します。ニクソンの面子(メンツ)を保ち、日本の繊維業界を守り、国益を損なわずに守った。日米繊維交渉を決着させた仕事は、角栄という政治家の一つの大きな成果といえましょう。

ここまでお読みいただき本当にありがとうございました。

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著者情報

ニックネームはハチマキめがね 。下水道の清掃員、マンホールから地下にもぐり数百匹のゴキブリとウンチまみれのドブねずみと対決→生鮮市場 でサンマやイワシなど小魚を売る。毎日、ギャング集団のマグロチームに追い立てられ少し弱り気味。市場の新鮮な旬の魚で一杯やるのが何よりの楽しみです。ド底辺の世界から世間をながめ、気になる話題を独自の切り口で語ってみました。「満月」のように太陽の光を浴びて夜道をやわらかく照らすような存在でありたいと思います。よろしくお願いします!

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