世界的なコンサルティング大手のアクセンチュアが突飛な動きを始めました。
現場の社員のルートで友人や知人を自社に引き抜く「リファラル採用」を積極的に展開しているのです。
転職者を紹介してくれた社員に支払う報酬(インセンティブ)を通常の8倍の水準に引き上げる大盤振る舞い。
誰もが憧れる人気の名門コンサルですからお金はあるでしょうが、いったい、「コンサル冬の時代」と言われるこの時期になぜ中途採用を増やそうとしているのでしょう。
それには深い訳があります。
ここでは次のような疑問に答えます。
●そもそもコンサルティングってどんな仕事、アクセンチュアに入ったらどんな仕事をやるの?給料は高い?
●新卒じゃなくなぜ中途採用なの?
●もしアクセンチュアの友人から誘われればどうすればいい?乗るか、断るか?
それでは一緒に考えていきましょう。
アクセンチュアは世界的に有名なコンサル会社
アクセンチュアって名前を聞かれた方も多いでしょう。
世界最大級の経営コンサルティングファームでして、戦略、業務、IT、デジタル広告など企業のほか国、地方自治体の悩みを解決するコンサルティングを提供しています。
とりわけ企業の収益を底上げし、成長のスピードを上げたり、経営不振に陥っている場合は再建のサポートをしたりするのが主な業務です。
IBMに次ぐ、システムの設計、開発、運用などを手がけるITサービス企業としても知られていて、社員数は世界で約72万人(2022年現在)。
拠点数は世界50カ国 200都市以上です。米国からスタート、バミューダに登記上の本社を移した後、2009年9月にアイルランドのダブリンに本社を置いています。
「ストラテジー & コンサルティング」「ソング」「テクノロジー」「オペレーションズ」「インダストリーX」の5つの領域にわかれ、幅広い分野でサービスとソリューションを提供できるのが特徴です。
平均年収は約867万円
給料はとにかく高い。
日本法人の社員の年収は約867万円です。
花形のコンサルタント職なら約924万円、エンジニア・SEは約625万円、テクノロジーの担当なら約878万円、戦略部門に配属されると1000万円の大台に乗り約1074万円です。
これはあくまで平均ですから、もっと成績の良い社員、パフォーマンスが高い社員はさらに積み増しされます。
新卒で入社した場合なら30歳で1000万円を超える人がたくさんいます。
とにくかく結果、数字を重視されるのが特徴ですから「遅刻をせず、社内の人と協調しながら問題を起こさず真面目に働く」といった日本企業に多い評価軸とは大きく異なります。
アクセンチュアに転職した人に聞くと「個人主義」「他人に干渉しない」居心地の良い会社と評価する人が多い半面で「困っていても助けてくれない」「転職して3週間で結果を求められ驚いた」といった声もあります。
ただ、世界的な有名コンサルですから在宅勤務や育休など福利厚生は充実していますので、実力のある人は安心して働くことができます。
重要なのは「働き方」ではなく「結果」「数字」「パフォーマンス」です。
会社への貢献度合いに応じて、会社は報酬で応えるという客観的でドライな関係が基本となります。
仕事はコンサルタント系とエンジニア系に大別
職種は大きく言ってコンサルタント系とエンジニア系に二分できます。
コンサルタント系の仕事は「クライアント(顧客)のニーズ、抱える問題の解決のための戦略策定」「策定した戦略の実行」、そしてエンジニア系は「必要となるシステムの要件定義」「実際の開発」が仕事になります。
このブログではコンサルタント系の関心が高いでしょうから、もう少し詳しく解説しましょう。
コンサルタント系で一番下は「アナリスト」でしてコンサルタントから仕事を依頼され、それをこなす立場です。
「コンサルタント」はマネージャーから依頼をされた仕事を遂行する。
「マネージャー」はプロジェクトを任され、それを進める。
「シニアマネージャ」は2~3つのプロジェクトを担当する。
「プリンシパル」はマネージャーの管理・サポートで、最後に「マネージングディレクター」となると一つのプロジェクトの最終責任者として報告会など重要な会議に参加する、というふうになります。
|
自分のネットワークでアクセンチュアへの転職者を紹介するとリワード8倍
大学時代の友人や取引先など自分のネットワークで、転職者を連れてきて自分が働く企業に入社させることを「リファラル採用」と言います。
職業安定法の第40条では「労働者の募集にあたり報酬を与えることは原則禁止」ということになっています。
人材紹介をするためには資格が必要で、大半のビジネスパーソンはそんな資格は持っていませんから、報酬を受け取ると違法となってしまいます。
しかし、同じく職業安定法の第40条では「賃金・給与として支払う場合は例外として認める」という文言があり、「リファラル採用」はこの例外規定を使うわけです。
解釈としては「紹介そのものに対する報酬」は違法ですが「業務の中の1つの要素に対する評価」として賃金や給与を支払うのは合法という判断になります。
アクセンチュアは知人や友人の自社への転職紹介を「業務の中の一つの要素」とみなし、対価としてこれまでの8倍を支払うこととしました。
これまでもリファラル採用を比較的、積極的に行ってきましたが、ここにきて報酬を8倍に増やし、これまでよりもさらに積極的に進めるという経営判断を下したのです。
ちなみに日本のリファラル採用の報酬はだいたい10万~30万円が相場とされていますから、仮にその8倍となるとアクセンチュアの社員が手にするリファラル採用の報酬は100万円を超えるかもしれません。
アクセンチュアが欲しいのは新卒ではなく中途
アクセンチュアは学生にとって昔も今も人気の就職先です。
早慶など有名大学を中心に「アクセンチュアでコンサル業務をやってみたい」という学生は多く、もし仮に「人材がいなくて大変。猫の手も借りたい」というのなら新卒の採用枠をふやせば問題は解決します。
しかし、アクセンチュアが強化するのは「リファラル採用」、つまり中途入社の社員が欲しいというのです。
「新卒ではなく中途」。
これがポイントです。
この問題はここに着目するといいでしょう。
リファラル採用は人材仲介会社を通さない分、安く人を採用できるメリットがありますが、アクセンチュアほどの大企業が、採用コストを減らすのが目的で「リファラル採用」を強化するとは思えません。
コンサルの厳しい経営環境
総合コンサル企業として有名なのは総合系ファームのBIG4(デロイト、PwC、EY、KPMG)。
このなかでもデロイトは業績が厳しく人員削減リストラ計画などを決めています。
決して、コンサルティングというビジネスが活況で「忙しくて忙しく仕事が大変。人手が足りなくて困る」という状況にはないのです。
そういった状況でアクセンチュアがリファラル採用を強化するには、それなりの意味と意図があるはずです。
経営コンサルティング会社の倒産が過去最多
東京商工リサーチが2023年12月に発表したレポートではコンサル会社の経営不振が指摘されました。
ここ数年、「DX(デジタル・トランスフォーメーション)バブル」などで業界は盛り上がってきましたが2023年1~10月期における経営コンサルティング会社の倒産件数は116件となり、リーマンショック時の件数(2009年同期の109件)を超えたのです。
2022年同期と比べてもコンサル倒産件数は78件でしたから、ここ1年間で倒産件数は約1・5倍に急増した計算になります。
ちなみに2023年に倒産したコンサル会社のうち89・66%は、負債1億円未満の小規模事業者でした。
ただ、デロイトの礼でも分かるように大手だって厳しいのが現実です。
大手コンサルの場合、大企業を対象に「組織開発」「営業開拓」といったテーマを細かく決め、課題ごとにプロジェクトを走らせて解決を目指すというパターンが多く、単価は高いのですが、プロジェクトの期間は3カ月~半年と短い。
盛り上がっていたDX需要もほぼ一巡してきており、大手コンサルといえども「あまり仕事がないのでは」という声も聞かれます。
欲しいのは人脈
となると……。
アクセンチュアが「リファラル採用」の報酬を8倍にまで引き上げても欲しいもの、それはいったい何なんでしょう。
コンサル冬の時代を乗り切るための優秀な人材、即戦力、規格外のスキル……。
もちろんでしょう。
しかし、重要なものがまだあります。
それは人脈です。
中途採用者がこれまで会社人生で培った様々な能力は当然ですが、さらにアクセンチュアが重視しているのは採用した人に紐づく人脈なんです。
アクセンチュアが積極的に採用している中途採用者のリストを見ると大手商社やメディアなどはもちろんですが、それに自社がクライアントにしてきた大手企業であることが分かります。
つまり中途採用という形で人をとり、その中途採用者の人脈を飲み込むことでクライアントを手繰り寄せる戦略なのです。
実際にアクセンチュアに転職したコンサルタントのなかに「これまでの人脈を生かして案件をとってくる営業のような仕事もしている」という人はいます。
さすが大手コンサルは違いますよね。
アクセンチュアが求める資質は超ハイレベル
アクセンチュアはトップコンサルです。
資料作成や数値分析、インタビュースキルといったいわゆる「ハードスキル」はまずは資質として当然、要求されます。
これに加えてコミュニケーション能力などの「ソフトスキル」も必要で、単にコンサルタントとして優秀なだけでなく、クライアントに選んでもらうためのマーケティング術や営業戦略を企画立案する柔軟性も求められます。
スマートで、分析が得意で、美しいスライドを作れるコンサル、それだけではダメなのです。
コンサル業界は人材の流動性が高く活躍し続けられる人はほんの一握りです。
良い仕事をしてクライアントに満足してもらいまた仕事をもらう、新しいクライアントを紹介してもらうなどで仕事をとり続けられることが大切です。
成功して得るものも、失敗するリスクも大きい
リファラル採用の場合、書類選考はほぼ100%通過するとされています。
その後、面接に進みますが、アクセンチュアに知人がいるので人事部に推薦文を送ってくれていたり、才能を売り込んでくれていたりと通常の転職に比べると採用に向け有利に展開していくことが期待できます。
ネットやホームページでは得られないリアルな社内事情を事前に仕入れ、それにあったパフォーマンスを面接などで示すこともできるでしょう。
転職が決まれば刺激的で大きな仕事が待っていることは間違いありません。
しかし、コンサルの経営環境が厳しいこと、外資であることなどから最初から高いパフォーマンスを示すことが求められます。
できなければ次の仕事も来ない、当然です。
仕方なく転職前にいた会社の人脈に頼らざるを得ないことがあるかもしれませんが、いずれそれも尽きる。その段階で命運はつきます。
アクセンチュアの仕事は厳しく週1〜2回ほど行われる会議に向けてほぼ常に次の会議の資料を作成し続ける毎日です。
資料にミスがないのは当たり前ですが、会議の行程と合っているか、構成や説明内容が論理的かなど、作成時間が限られているにも関わらず厳しくチェックされる毎日です。
それに耐えられるのか……。
可能なら限りないやりがいと高い報酬が待っていますから、挑戦する価値は十分にあります。一方で少しでも不安があるなら徹底的にリサーチし、知人に相談することが重要です。
人生は一度限り、アクセンチュアへの転職は成功して得るものが大きいことは間違いないですが、失敗するリスクもまた大きいことを自覚する必要がありますね。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
まとめ
●コンサルティングは企業の成長、再建を責任もってサポートする仕事。責任は大きく失敗は許されない。最初からハイ・パフォーマンスを求められる代わりに給料は高い。新卒採用なら30歳で年収1000万円超えはゴロゴロ。
●新卒じゃなくなぜ中途採用なのかが大切、即戦力と高い能力、転職前にいた会社の人脈も求められる。
●アクセンチュアの誘いに乗るのも乗らないのも、やる気次第。得るものも大きく失敗するリスクも大きい。
|
|