週刊文春の『文春砲』が炸裂してからジリジリと追い詰められるお笑い芸人、松本人志さん。いよいよ最終局面を迎えそうです。とどめを刺すのは大阪・関西万博。
能登半島地震で被災地が大変な時に「税金の無駄遣いなんて」と不人気の大阪・関西万博ですが、お笑い界の闇を切り捨てるということでは、大きな役目を演じるかもしれません。
なぜ、大阪・関西万博が松本さんに、とどめを刺すことになるのか。見ていきましょう。どうかご覧ください。
人気ない万博 やり通すには「松本人志」が阻害要因
1-1 万博やるには松本が邪魔
大阪・関西万博の開催まで500日弱。経済界も全面バックアップの姿勢を見せてきましたが、いっこうに盛り上がる気配はありません。2023年末のNHKの世論調査では「関心がない」と答えた人がおよそ7割、その後2024年に能登半島地震が発生したため「万博を中止して復興を優先すべき」との世論が急激に盛り上がりつつあります。
それでも是が非でもやりたいという人もまた多いのも事実です。そういった人たちの間から出てきているのが「この際、松本人志を分かりやすい形で切るしかない。邪魔になっている」という意見です。なぜなら大阪・関西万博の公式アンバサダーのポジションにあるのは松本さんだからです。
1-2 ノーベル賞の山中さんとともに万博の顔
アンバサダーとはいわば万博の「顔」。松本さんのほかダウンタウンのほか、宝塚歌劇団の俳優5人や歌手のコブクロ、京都大の教授でノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥教授らが務めています。イベントを盛り上げる重要な役回りを期待されており、お笑い界の重鎮である松本さんへの期待は大きいものがありました。
1-3 「大阪・関西万博催事検討会議」の座長は吉本興業のドン
松本さんをアンバサダーに推したのは吉本興業ホールディングス(HD)です。それがすんなりと通りました。なぜなら万博の開閉会式や、期間中に会場内で実施するイベント(計数千件規模)の内容を検討する有識者委員会「大阪・関西万博催事検討会議」の座長が吉本HDの前会長で「よしもとのドン」と呼ばれる大崎洋氏(道家元池坊・池坊専好次期家元と共同座長)だからです。松本さんには以前から女性への性的行為強要の疑惑はありましたが、大崎氏が推す以上、反対する声は上がりませんでした。
1-4 大﨑氏はダウンタウンの育ての親であり、ダウンタウンは大﨑氏の勲章
では、ドンである大﨑氏はどんな人物なのか。一言でいえば、大﨑氏はダウンタウンの生みの親です。NSC卒業後大阪でくすぶっていたダウンタウンの才能をいち早く見抜き、自らマネージャーを買って出ました。2人の仲が解散寸前にまで険悪化した際にも、その中に割って入り、何時間も話を聞きながら仲裁に努めました。そしてダウンタウンの才能は関西でとどまっているレベルではなく東京でも通用するとみて、人気番組『4時ですよ~だ』(毎日放送)のプロデューサーを自ら務めるなどしてダウンタウンを売り出したのです。松本さんにとって大﨑氏は恩人で“兄貴”と慕っていると言います。
しかし、それは大﨑氏にとっても同じです。大﨑氏が吉本興業において「ドン」と呼ばれるところまで上り詰められたのもダウンタウンがあったからこそ。大﨑氏の思惑どおり売れてくれたからです。
大﨑氏は1953年大阪府生まれで、関西大卒。1978年に吉本興業に入社しました。2009年に社長、2019年に会長となり2023年に会長を退任しましたが、いまだに菅義偉前首相との太いパイプがあります。菅氏との縁を頼って安倍晋三元首相に食い込み、維新にもつながりました。安倍晋三氏が首相時代、「よしもと新喜劇」に出演し、賛否両論、世間で話題になりましたが、その大仕掛けをやってのけたのも大﨑氏です。それもこれも今や吉本興業最大のドル箱となったダウンタウンを「発掘し成功させた」という勲章で吉本興業内の出世競争を勝ち抜いてきたからこその座なのです。
1-5 追い込まれる大﨑氏
その大﨑氏を取り巻く環境が厳しい。とりわけ能登半島地震後はその厳しさをましています。2024年1月29日の記者会見では、被災地で断水、停電が続き被災者が苦しんでいるなかで大阪・関西万博を開催する方向で準備を進めるのかという問いに対し「復興の妨げにならないよう進めたい」と答えました。しかし、どう考えても、「復興の妨げ」にならざるをえません。ただでさえパビリオンの建設は大幅に遅れています。日本建設業連合会の会長である宮本洋一会長(清水建設会長)も2023年11月末の時点で「デッドラインは過ぎた」として開幕までに全パビリオンの建設は難しい実情を訴えていました。さらに能登半島地震が発生したのですから、開幕までに会場の準備が整うのは、確かにかなり怪しい状況です。
しかし、大阪・関西万博催事検討会議の座長という立場での発言ですから「推進」という立場を貫かなければならない。「復興の妨げにならないように進める」というブレーキを踏みながらアクセルを踏むというような不思議な発言にならざるを得ないのです。
1-6 松本人志は大阪・関西万博の「忌」
大﨑氏にとって悩ましい問題がまだあります。吉本興業として出展するパビリオン、waraii myraii(ワライミライ)館の問題です。多数の芸人やタレントを抱える吉本興業にとって人が集まる大阪・関西万博を絶好のチャンスです。「小さな微笑みから大笑いまで、笑顔から生まれる幸せを体感できるパビリオンを目指していく」といい、総合プロデューサーには演出家や劇作家として活躍する小松純也氏が就任します。何が何でも成功させなければならない。
それまでに吉本興業と松本人志の関係をしっかり正しておかなければならないのです。笑いというのは徹底的に「ハレ」の要素、そこにほんの少しでも「忌」が入り込んではなりません。大﨑氏は自分をここまでの「ハレ」の舞台に押し上げてくれたダウンタウンの松本さんとの関係をどうするのか、吉本興業の実質的な代表として決着をつけざるをえないのです。
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吉本興業が松本人志との関係を軌道修正
2-1 松本さん「遠くから寄り添う」
1月の記者会見では松本さんと大﨑氏との個人的な関係を踏まえたうえでの質問も出ました。その際、大崎氏は「高校を卒業した時から知っているし、自分は(ダウンタウンの)元マネージャーでもある」としながらも「僕にできるのは遠くから寄り添うしかない」と答えました。どうでしょう。「遠くから」、そして「寄り添う」……。実に冷ややかではないでしょうか。
また、松本さんの代役を立てるのかとの問いもでました。松本さんは現在、係争中ですから憶測や推測、状況証拠をもって「アンバサダー解任」というわけにはいきません。アンバサダーの仕事は芸能活動ではないのだから「休止」しなくてもいいのでは、という意見すらあります。いずれにしても推進役のいない万博は前に進みようもない。記者会見でもそこを問われたのですが「アンバサダーとしての今後は、(依頼元の)大阪府・市と吉本興業との話し合い、本人や相方の浜田君(浜田雅功さん)とも話し合われると思う」と述べました。
どうでしょう。これまでとはだいぶトーンが違いますよね。「松本さんを切る」とは言わないものの、事件当初、吉本興業は「事実無根」と徹底的に戦う姿勢を示していたのですから、松本さんを信じているなら、大阪・関西万博のような重要で公益に関係するイベントについては「しっかりと責務を果たしてもらう」と言ってもいいはずです。
しかし、そうは言わないし言えない。大崎氏のバックボーンである吉本興業が「松本さん切り」のタイミングをはかり始めていることがよく分かります。
2-2 芸人6000人の生活を抱える吉本興業
事件当初、吉本興業が「事実無根」とのコメントを発表したのは激怒した松本さんの意向が強く働いていたからにほかなりません。会社側も従うしかなかったはずです。なぜなら社長の岡本昭彦氏の立場は、松本さんよりも圧倒的に下だからです。その岡本氏を引き上げたのがダウンタウンを世に出してドンとなったのが大﨑氏、そしてその大﨑氏に引き上げられたのが岡本氏です。当然、岡本氏は大﨑氏の出世の原動力となった松本さんを批判することなどできるはずはありません。何より1993年には岡本氏もダウンタウンのマネージャーを務めています。そんな関係から当初は松本さんの意向を組んで会社としても強硬な態度で出るしかなかったのでしょう。
とはいえ、岡本氏は吉本興業という巨大企業の社長でもあります。会社とそこに属する芸人さんはもちろん社員さんたちの生活を守る使命があります。時間が経過するとともに新たな証人が登場、証言も増え、松本さんの旗色が悪くなるなかで、会社もろとも松本さんと一緒に沈むわけにはいかない。仮に松本さんが裁判に負けた場合、企業の社会的責任も問われる。そこのところを考えたのでしょう。松本さんと一心同体という立場から、第三者として事態を見守る客観的な立場に少しずつ方向転換をはかりはじめたということです。
2-3 ドン大﨑氏が吉本興業から離れる
吉本興業のスタンスが変わり始めたもう一つの理由は大崎氏が相談役として名前を残すこともなく、吉本興業から完全に離れてしまったことです。関西財界では影響力があるとしても吉本興業という企業体の中にあってはもはや決定権も発言権もない。こうなれば吉本興業も正常な判断に戻ります。
そもそも訴訟した松本さんが裁判で完全に勝つのは難しい。それは最初の弁護士選びを見ればよく分かります。当初、彼は別の弁護士にオファーを出していましたが、『勝算がない』と次々断られ、最終的に田代弁護士に決まったのです。彼は、陸山会事件で捜査報告書に虚偽の記載をしたとして、虚偽有印公文書作成及び行使罪で告発され、検察官を辞職した人物です。そんな人に弁護を頼まざるを得ない状況を見ても、松本さんの事件は泥船です。そこに吉本興業が乗り込むわけにはいかないのです。
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見えてきた芸能界引退のシナリオ
3-1 吉本興業、大阪市と包括連携協定
ただ、吉本興業が今後も松本さんの「裁判の行方を見守る」という立場でしのげるかというとそうもいかない状況になりつつあります。
吉本興業は万博への立候補表明から7カ月後の2017年11月に大阪市と『包括連携協定』を結んでいます。大阪市のような公的機関との連携はその後のビジネスチャンスにつながります。イベントが開かれれば吉本興業が抱える芸人の活躍の場を得ることになるし、吉本興業のブランド貸しや様々な笑いのコンテンツをマネタイズする機会にもなります。一つのドル箱なのです。企業である以上、ドル箱を失うわけには行きません。吉本興業が企業として生き残っていくには大阪市のような地方自治体との良好な関係が必須条件なのです。
3-2 芸能界引退も
地方自治体のような公的機関が嫌うのが不祥事です。松本さん問題は大阪市も不問に付すというわけにはいかないでしょう。大阪・関西万博で松本さんがアンバサダーに就任したのも包括連携協定があってのことなのですが、この協定を結んだ張本人が大﨑氏。吉村市長(当時)と会見に出席し「大阪の魅力を、日本中、世界中に発信することにご一緒する」と述べましたが、松本さんの問題は大阪の魅力を大きく損なうものになりつつあります。
とりわけ、大阪・関西万博で吉本興業が運営するワライ・ミライ館では日々、様々なイベントやショーが繰り広げられる予定です。松本さんの問題にケリをつけないまま「ハレ」の顔を維持していくことは難しい。大阪・関西万博が開かれる前に松本さんとの関係を明確にしなければなりません。
その場合、松本さんに鈴をつけられるのは育ての親である大﨑氏しかいない。そしてその大﨑氏は大阪・関西万博を成功させなければならない立場にあります。
「公」と「私」を秤にかけるなら優先すべきは「公」。大﨑氏もそこは十分に分かっているはずです。
こうなると松本さんも姿勢を問われる。記者会見を開き事情を説明する必要があるでしょう。場合によっては芸能活動を休止という中途半端な形ではなく、吉本興業を退社、芸能界を引退といった決断を迫られる可能性も低くはありません。
まとめ
●大阪・関西万博は「ハレ」の祭典。松本人志はその万博のアンバサダーで「顔」役
●大阪・関西万博を推進する立場の吉本興業は大阪市など「クリーン」を求める公的機関とも蜜月の関係
●吉本興業は企業体として「忌」の松本問題にケリをつけることを求められる。記者会見、芸能界引退も。
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