あの瞬間を覚えているでしょうか。
2023ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)準々決勝ラウンド。
イタリア戦で大谷翔平選手がセーフティーバントを決めた瞬間です。
「えっ!」。
東京ドームはどよめきに包まれました。
「絶対に勝つ」「勝利のためには『個』を捨てる」。
大谷翔平選手の強い思いが伝わりました。
あのプレー、起点は高校時代にありました。
どういうことでしょうか。ご紹介していきますね。
1 侍ジャパン、イタリア戦で快勝
その試合、日本代表「侍ジャパン」は快勝でした。
9-3でイタリアを下したのです。
これで日本は4強進出を決めました。
頂上を目指す日本にとってイタリア戦で負けることは許されません。
「絶対に勝つ」。
その思いが形になったのが、3回。
1死1塁で迎えた大谷翔平選手の打席でした。
日本は初回からチャンスを作りながら、得点できずにいました。
0対0。
ズルズルいくと嫌なムードにもつながります。
「この嫌な雰囲気を打ち破らないと」。
誰もがそう思っていました。
2 大谷翔平選手が「誰も予想していない」バント
ここで大谷翔平選手は仕掛けます。
一死から近藤が四球で出塁すると、直後の初球で三塁線にバントを放ったのです。
大谷翔平がバント?
だれもが予想していませんでした。野球解説者でギネスの記録も持つ谷繫元信氏も「正直、誰も想像していなかったんじゃないですか」と語っています。
3 日米通算10年のシーズンで初のバント
それだけ意表を突くプレーでした。
守備は完全に大谷シフト。
内野手3人が一、二塁間に寄る極端な守備です。
ここで大谷翔平選手が3塁線にバント。
守備陣は一、二塁の方に寄っていましたから三塁側はガラガラ。
しかも大谷翔平選手は日米通算10年のレギュラーシーズンで一度も犠牲バンドを記録したことはありません。
イタリア側で大谷翔平選手のバントを予想している選手は一人もいませんでした。
当然、守備陣は1テンポも2テンポも遅れます。
そこでのバント。
大谷翔平選手は一塁まで全力で疾走、見事に内野安打としましました。
大谷翔平選手の読みが勝ちました。
4 チームに火がつく、4得点のビッグイニングに
これでチームが一気に湧き上がります。
「大谷があそこまでやった」「必死にやっている」「俺たちもやらないでどうする」。
チームは一挙4得点をあげ、ビッグイニングとなったのです。試合の流れも一気に日本に傾きました。
5 三塁線バントなら絶対にいける
大谷翔平選手はとにかく熱かった。
「野球で世界を征する」。
その思いに満ちていました。
しかし、同時に冷静でもありました。
極めて冷静だったのです。
なぜなら米大リーグで米国の野球を見て知っていたからです。
「日本は勝てる」と確信していました。
もちろん守備の態勢も見えていました。
「三塁側がガラガラ」。
「体の比重も注意力も一、二塁側にかかっている」。
この状態で三塁側にバントをすれば完全に逆をつけると判断したのでした。
実に冷静でした。
6 花巻東時代からの「大谷シフト」
大谷翔平選手は試合後、「日本の勝利よりも優先するプライドはなかった」と語りました。
冷静な状況判断から、確実にチームが勝利する方法を選択したのです。
全体勝利のために個人は何をすべきか。
それを徹底的に考えてのイタリア戦でのバントだったのでした。
実は大谷翔平選手は花巻東高校時代からこの「大谷シフト」に悩まされてきました。
左打ちで強打者の大谷翔平選手の打球は、ほぼ確実に一、二塁側に飛ぶ。
高校生の試合でありながらバッターの大谷翔平選手に対し、外野手4人が対峙したのでした。
7 冷静だから三塁側が「見えた」
何度も何度もそんな極端な守備を繰り返されれば、バッターだって頭にくる。
大谷翔平選手だって人間です。
とりわけまだ若い高校生ならそうでしょう。
「卑怯だろう」。
熱くなっても当然です。
しかし、大谷翔平選手は冷静でした。冷静に状況を判断、ガラガラに空いた三塁側にゴロを打ち返しヒットをものにしたのでした。
8 高校時代の経験値が成功の起点
高校時代、「大谷シフト」をしかれた経験があったからこそ冷静でいられました。
そして確実にヒットを打てることが分かっていました。
高校時代の悔しい経験を生かして、WBCという大舞台でもバントを決めることができたのです。
仮に失敗していたらどうでしょう。
大谷翔平選手は猛烈に攻撃されていたはずです。
「姑息だ」「まだフルスイングで三振の方がマシだった」。
そう言われていたかもしれません。
しかし、大谷翔平選手は成功すると判断できた。
高校時代の経験があったからです。
9 「個」を捨てチームに火をつける
バントという「個」を捨てる行為で、チームも目覚めました。
「チームの勝利のために大谷が個を捨てた」。
チームは盛り上がります。
火がつきます。
だからこそ一挙4得点というビッグイニングを引き寄せることができたのでした。
仮に大谷翔平選手が普通に打席に立ち、ホームランを打っていたら、どうでしょう。
ランナーがいたからツーランとなり2点をとることはできた。
しかし、それだけです。
「大谷だもんな」。
チームメイトはそう思ったでしょう。
しかし、バントなら「よしっ。今度は俺たちだ」と周りも盛り上がります。
大谷翔平選手は、あえて個を捨てるバントをすることで、チームメイトの闘魂にも火をつけたのでした。
まとめ
ここまでお読みいただきありがとうございました。
最後に野球解説者の谷繫元信さんのコメントで終わりたいと思います。
「あれだけ熱い投球しているのに、あの場面で意表をつく冷静さも兼ね備えている。打ちにいって凡退しても誰も文句は言わないのに、チームを勝たせるために、あのセーフティバントをやった。どれだけ周りの状況がよく見えているんだ」。
●WBCイタリア戦での大谷翔平選手のバントは完全に相手チームの意表をついた。
●大谷翔平選手が「個」を捨てたことで、他のチームメイトに火がついた。
●「大谷シフト」は高校時代からあった。だからこそ冷静にバントを決めることができた。それが良い結果を招くことも予想できた。